ESSENTIAL EATING FOR WELL BEING:「食べる」ことから考える、よりよい「暮らし」

Category : EVENTS コラム 記事

良いものを根拠をもって選びたい

東京で暮らしていたとき、「食材を買いにスーパーに行く」という行為があるときから嫌になった。

生命体であるはずの野菜や肉は店頭に並ぶとまるで無表情で、工業製品にすら見えた。そんなのっぺらぼうな商品を、値段のこと以外何も考えずにカゴに入れていくことも嫌だったし、そこへきて聞こえてくる「旬の〇〇がお買い得です!」みたいな店内放送も、自分が能動的に「買う」というより「買わされている」感覚に拍車をかけ、ますます足が遠のいた。

そういう訳で、私にとってスーパーは、愛して止まない大好きな「陳健一の四川焼売(冷凍)」と、ウイスキーに浮かべるロックアイスを求めるだけの場所となり、その他の食材は近所の自然食品店で買うようになった。そこへ通ううち「良いものを根拠をもって選べるようになりたい」そして「選ぶ」だけでなく「作る」プロセスにも参加して、自分の食べるものがどうやって出来ていくのかを自分の目で見てみたいと思うようになり、会社を辞めて約1年の自然農法の研修を受けることにした。

 

環境によって変化する「食」

自然農法の研修を受けながら自分で育て収穫した野菜たちは工業製品には見えなかったし、何より心の底からうまいと思った(感覚的に、「おいしい」というより「うまい」という方がしっくりくる)。3月末に研修が始まって、初めて収穫した野菜はレタスだった。私は生野菜にドレッシングをかける食べ方が好きではないので、自分でレタスを買うことはあまりなかったし、レタスそのものをしみじみ味わったこともなかったが、自分で育てたレタスを口にしてそのまろやかな味わい、嫌な苦みのなさに衝撃を受けた。

「レタスに味がある!」。

研修期間中、私がお世話になっていたのは自然農法に適した品種を育成するチームで、レタスに関しては既存品種の特性改良に向けて10種類以上の品種を栽培していた。異なる品種の食べ比べをして初めて、味にこれといった特徴のないように思えるレタスであっても品種によって風味に差のあることを知った。レタスに限らず、キャベツ、キュウリ、ナス、カブなども、この品種は味は抜群だけど生理障害が多かったとか、この品種はあんまりうまくないけどよくとれたなとか、品種間の特性差、適する土壌や環境条件から生じる差があることを知った。

(複数品種のレタスの苗)

食べることは暮らしそのもの

研修の前後で、こと食について自分の中で変化したことがある。

うす味を好むようになったことだ。

先に述べたとおり、自然農法の野菜は本当にうまい。それだけでうまいのだから、余計な味付けをしてその風味を損なうようなことはしたくない。だから、その素材の味わいを一番引き出せるような調理の仕方を考えるようになったし、調味料も厳選するようになったし、そのおいしさは一体どこから生まれるのかを知りたいと思うようにもなった。そしてそれらの変化はそのまま、自分の「暮らしの質」をぐっと引き上げることに繋がるのではないかと思う。

食べることは暮らし、生きることに直結しているから。

自分にとってより良い暮らしとは何なのか?

そして、それを支えるのになくてはならない食とは何なのか?

このシンプルな問いを深めていくことが、今自分の中の大きなテーマになっている。

研修を修了した今でも自然農法を一言で説明するのは難しいけれど、品種選定や栽培管理、あるいは栽培する土壌は間違いなく作物の味に影響を与えることは確信している。ことばにすると「そんなの当たり前じゃん」と思うのだけれど、私にとってそれは自ら実践して得た、感覚を伴った確信である。

 

「食材」が生まれるプロセスから考える「より良い暮らし」

私が実践した(そしてこれからも実践していく)のは野菜作りだが、思えば野菜だけでなく、肉や魚、果物、穀物など、あらゆる食材には「育てる」「作る」というプロセスがある。けれど、今その「育てる」「作る」プロセスが見えにくくなっているのではないだろうか。これは元を辿っていくと、戦後日本の国家としての「国民を飢えさせない」ための食糧管理政策にまで遡ると思うから、その事実の良し悪しは簡単に論じられることではないけれど、見えづらくなっているからこそそこに目を向けて考えることには大きな意味があると思う。

 

「私たちが日々口にする食材はどのように作られ、食卓に並ぶのだろうか?」

 

そんな問いを出発点にして、それぞれの食材に精通した実践家とともに私たちの生活を支える「食」について、そして自分にとって「よりよい暮らしとは何か」をみんなで考えていくイベントを企画しました。

 

イベント(全5回):ESSENTIAL EATING FOR WELL BEING ~食と暮らしを考える5夜~

食材にフォーカスするため各テーマのエキスパートの方々をお招きし、食材ができるまでのプロセスや実際の食材を使用した料理をいただきながら、食材の魅力や感じている課題などを語っていただくイベントです。各回のテーマは以下の通りです。(未定の回は順次公開していきます。)

 

第1夜「Butcher as a craftsman―肉屋という職人―」2018.2.16 Fri. 19:00-21:00

第2夜「Tea, or Coffee?―日本のお茶文化―」3月下旬予定

第3夜「The power of soil and seeds―野菜作りを支える土と種―」4月下旬予定

第4夜「Hacked by fermented foods―発酵食品と日本の食卓―」5月下旬予定

第5夜 TBA …6月下旬予定

 

This program is brought to you by KNOWERS and its coordinator, Haruka Oshima

コーディネーター

大嶋遥

料理人の叔父に憧れその道を目指すも母の反対に遭い、普通に四大を出て普通に就職。都内での会社勤めを経て、30歳を機に予てから興味のあった自然農法を学ぶため会社を辞め松本に移転。現在はKNOWERSコーディネーターの傍ら、再生可能エネルギー技術開発企業で翻訳業務に従事。好きな言葉『普通は0点』(冨田勝・慶応義塾大学先端生命研究所長)

 

B!
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