今回ご紹介するThe Source Dinerさんは、先の6月に1周年を迎えたレストラン。
松本シティのダウンタウンエリアに位置し、縄手通りからもほど近く、街中でありながら落ち着いた場所にあります。
「雰囲気もよくて、美味しいお店」として若い人を中心に人気なのですが、それだけじゃないんです。
「おしゃれ」の一言で片付けてしまえば簡単ですが、とにかくこのセンスのよさ、雰囲気のよさの正体が気になってしかたありません。
絶対にこだわりがあるはずだ…!
ということで、早速行ってみましょう!
きょうのKnower
安達 真(あだち まこと)
1979年 塩尻市出身
The Source Diner 店主
この場所の楽しみ方
「Source」にはたくさんの意味があります
このお店を「見つけて」ください
食べる事や、内装や、音楽や、いろいろを楽しんでください
一人でお酒を飲みに来るのもいいし、友達をたくさん連れてくるのもいい
スケーターならランチの大盛り無料です
日常と非日常を行き来できるような空間でありたいです
ーーかわいい帽子ですね。ブルックリンで買ったのですか?
安達さん:これはね、東京で。ずーっと探してて。東京にこないだ行った時に自転車屋に行ったらあった。奥さんには、最初すげー笑われたけどね(笑)。
利佳さん(安達さんの奥さん):なんか、お笑いみたいじゃん(笑)。体操のお兄さんとかさ、そんなイメージ。
絶妙な感じのかわいみが。
お店のロゴ
安達さん:ロゴはちゃんとデザイナーさんに頼んで作ってもらった。D&Departmentで一緒に働いてた人で、おれのことよく知ってるし、やりたいこともよくわかってる人だったから。店の内装もべつのやつが担当してくれた。
ーーこれは山と星ですか?
安達さん:右の2本は、お城。1本は、山。で、真ん中のは「花のタナカ」の花。
The Source Dinerの前に入っていたお店は、お花屋さん。
安達さん:松本の山と城とこの場所と、その上に成り立ってるっていう意味があるんですよ。
ーー名前の由来を教えてください。
安達さん:Source自体は、「源」。食べることは人の生きる源だし、自分のこの店が情報源とか音のソース、音楽のソースになるように。あと、水源の街でしょ?井戸が多いよね、松本って。そういう意味もあるし。
あとは料理にかけるソースをイメージする人が多いと思うんだけど、そういう意味もあって。うちは一応洋食屋さんだからさ。
ーーなるほど、洋食はタレじゃなくてソースですもんね。
安達さん:カレーソース、パスタソースもソースだしさ。ドレッシングもソースだしさ、サラダにかける。っていうね、洋食ってそういうソースで構成されてるから。
今は全然追いついてないんだけど、本当はThe Source Dinerのオリジナルソースも作りたいんだよね。
ーーラウンジで音楽を流すイベントをやったりしていますよね。すごくアメリカっぽいなというか、この辺ではあまり見かけない取り組みかなと思って、とってもいいなと思っています。
安達さん:アメリカでそういうところによく行っていたというわけではないんだけど、ただ単に、夜はもっと大きい音で音楽流したりしたかったんだよね。そしたら周りの人が、うちでこういうイベントをやりたいっていう風に言ってくれて、動き出したっていうか。
ーー街の人が自然発生的に起こした動きなんですね。
6月に行われた、1周年記念パーティの様子。お店の中にDJやダンサーがやってきて、たくさんのお客さんでにぎわいました。
内装のこだわり
安達さん:経年変化していくようにしたいってのは言ってたんだよね。だから汚れても変えるわけじゃなくて、それが味になっていくような…。この物件のポテンシャルと、自分がやりたかった雰囲気って多分、わけのわからないものだったと思うんだけど、そこをなんかすっごい上手にまとめてくれたなって思ってる。
いろいろ案はあったんだよ。ほんとにダイナーみたいにソファ席があって…みたいなのとか、やりたいことはいっぱいあったんだけど、こういう話に落ち着いて。キッチンを奥に作るっていう話もあったんだけど、やっぱりお客さんと喋りたいっていうか。おれんちに遊びに来たっていう感覚でいてほしかったわけ。だからこっちにしてもらった。お客さんと必ず触れ合えるし、一言もあいさつを交わさないお客さんが絶対にいないっていう構造になってる。一人でやってるから待たせちゃ悪いなという風に一生懸命やってるんだけど、そんなライブ感があったりさ(笑)。
安達さん:食べる事って日常なんだけど、でもそれが非日常なこともあるよね。うちに来る事が非日常であり、でもそれが日常にもなってほしいし。そういう風につかってくれたらいいなぁって思ってます。
おれらが海外旅行するのって非日常なわけじゃん。でもそれが日常だといいなぁって思いながら旅するわけじゃん。ある人の日常ってある人の非日常じゃん。なんか、そんな感じかなぁ。
はまっていること
安達さん:ポートランドリサーチ(笑)。9月にポートランドに行くのでそのリサーチとかをしてるかな。お店でもポートランドのビールを扱ったりもしてるから、新しいメニューのアイディアを得たりとかしたいかな。いろいろな背景を知っていれば、説明する時にも熱量が生まれるじゃんね。別に新しいものじゃなくても、サイクルでまわしたり、今シーズンはこのブリュワリーのこれにしてみたり、とかね。そういうのでも良いかなと思って。
あとね、ジム通い(笑)。ゆめひろば庄内ってとこに行ってて、すっげー安いんだ、あそこ。お腹へこましがてら行ってます。
ポートランドにいくにあたって
安達さん:絶対影響受けて帰ってくるよねぇ(笑)。
ーーアメリカにいた時にオレゴン州に留学していたんですが、ポートランドの街をかっこよくしているのって、決してホワイトカラーの層ではないと思うんです。コーヒー屋さんやお店やさんみたいな、飲食店や小売店、アーティスト、ミュージシャンがすごく元気っていうか。そういうところがとってもいいなと思って。松本の街にいても、そういうことを感じる場面が多くあります。ポートランドも松本も若い人が元気な印象があって、そこが結構似ていると思ったりしました。近い感覚を持っている人って多いと思うんです。
安達さん:それが集まってきた土壌がどんなものなのか、とか、そういうところもすごく気になるよね。住みたい街No.1でしょ?全米で。そうなったからには理由があるわけだし。安曇野は移住したい街1位なんだっけ?でも、そういうのとは違った意味合いのはずだよね。
ーーこっちは余生を過ごしたい系の人が多い気がします。第二の人生的ベクトルがつよいというか。
安達さん:でもさ、個人だけじゃなくて、行政と絡まないと良くならないところっていうのも絶対あるわけじゃん。そこをどうやって動かして、都市景観から変えたりできるのかなみたいな。そしたら、もう「どこかへ行かなくてもここでいいじゃん」ってなるよね。そうなればさ、ここに住んでればいいわけじゃん。
松本も今でも結構いいけど、でも変なのぼりが立ってたりさ(笑)。そういうの、なんていうかカッコよくないじゃん。そういう景観とかのことに関心があって、きちんと考えてくれる人が行政とか絡んでくれたりすると、もっと良くなるのかなって思ったりはするよ。
例えば、街灯の色を全部オレンジにするとかするとするじゃん?そういうところを変えるだけでも、街って全然変わると思うよ。そういうことは、個人レベルでは無理というか、行政が関わってくれないと難しいところだよね。
卒業後に渡米
ーー安達さんはどうしてアメリカに行っていたのですか?
安達さん:遠い知り合いの人で、ニューヨークのカフェで働かせてくれるっていう人がいて。それで行くことになったんだけど、もともとはアメリカにすごく憧れてて、ホームステイしたりだとかしたかったんだけど、でも親に「ダメ」って言われて行けなくて。でもずっとアメリカの文化とかに憧れがあったから、いいなぁと思ってたんだよね。
ーー以前就活でアパレルの会社をたくさん受けていたのですが、40代くらいの社長さんがやっている会社も多くあって。それまで意識したことが全くなかったんですけど、彼らはすごくアメリカのカルチャーに憧れていた世代の人たちだったんですよね。今のスタンダードになっているファッションだったり古着だったりっていうのは結構アメリカのものだった、というのをそのときに知ったんですよ。目から鱗でした。たくさんの人が憧れていたんですね。
ちなみにわたしもアメリカに行っていたことがあるんですが、世代的に911〜イラク戦争をニュースで見てきた世代。憧れよりもディスがあった気がしますが、実際行ってみると場所によってもカラーが全然ちがっていて面白く、ニュースでみるような「アメリカ」は一体どこに存在しているのか、不思議なくらいでした。
安達さん:大学生のときにバイトしてたカメラ屋さんの斜め向かいに有名なケーキ屋さんがあって、そこのおじさんっていう人がニューヨークでカフェをやってたのね。当時おれが20歳くらいで、カメラ屋さんの若夫婦が当時30歳くらいだったんだけど、メシとか食わせてもらってて。その若夫婦がカフェやりたいって言ってて、で「ダチ、お前修行して、一緒にカフェやろうぜ。」って言ってくれて。「わかりました!修行しますよ!」っつって。で、その向かいのおじさんが帰ってくるタイミングで会って話したら、「来なさい」って言われて。最初の半年は語学学校にも行ったよ。
それまではなんとなーく行きたいと思ってたけど、そのカフェで働けるってなって話がトントントーンと進んでいった。
ーーそれまでは料理や飲食とは全く関係のないことをやっていたんですね。
安達さん:大学はおれ教育学部だったから、先生になりたかった。えっとね、中高の社会科全般、地理歴史公民政治経済とかそういう。歴史は昔から好きだったから。勉強するのもね。それでそういう道を考えてたんだけど、大学の途中から先生になるのはもういいや、と思うようになって。
就職どうしようと思ってた時に、そういう話がでてきて、「じゃあアメリカ行く!」っつって。みんなが勉強したり就職活動をしてる時だったから、周りからは、「お前大丈夫?」って。
安達さん:周りは先生になるような人ばっかりだったからさ。行く前に、「ダチはいいよねぇ、いつまでも学生みたいなことしてて。」って言われて、すっげぇカチンときて。アメリカに行くって決めた時は良かったけど、一人で留学するってなって途中から緊張するじゃん。どうなるか想像もできないし、行きたくないとかも思っちゃうし、でももう決まっちゃってるから行かなきゃいけないし、どうしようどうしようってなってるのに、「遊んでるみたいでいいよね。」とかいわれて「コイツ…!」ってなって(笑)。ま、いいんだけど、そんなこと言われたりしたな〜。
未だにそういうことを言った人たちに会うと、「ダチまだそんなことやってんの?」とかさ、「大丈夫かお前?」みたいな感じだよ(笑)。まぁ、そういう人なんだよね。仲は良かったんだよ。良かったんだけど、「ちゃんと就職しなくて大丈夫か」みたいなさ。
ーーなるほど…。わたしたち世代くらいになるとだいぶそういう雰囲気は薄まってくるので、安達さんほどの風当たりの強さではないと思うんですが、わたしの地元の友人も保守的な人が多かったので、見渡すとだいたい公務員か先生、そしてもう結婚している、みたいな感じなんですよ…。「今、なにやってんの?大丈夫?生きてる?」みたいな。だから地元に帰っても「話すことあるのかな…?」なんて不安になることはありますよ。まぁ、あんまり誰かと会うこともないんですけどね…。
視野を広げる
ーーアメリカに行ってよかったと思うことはありますか?
安達さん:うーん。考え方はちょっと広くなるというか。日本の人って結構こう、狭い考えの人も多いじゃん。狭い中でいろんなこと考えてるし、行動もそうだよね。で、ほんと島国だなーって思うのが、自分たちが外に出た時にどうみられるかっていうところの意識がない人がすごく多いんだよね。まぁ、別にどうみられてもいいんだけど、こんなグローバルな世界でこんな英語喋れない先進国の人もいないし…。その、自分が日本人であるっていうアイデンティティも持ってないからさ、海外に行った時に自分が何者かっていうところがないっていうか…。ただ「英語がしゃべれないお人好しで、お金はあるから買い物する」っていうような見られ方をしてしまうっていうことが往々にしてあるわけじゃん。
でも、気づくと自分もそうだなって思うことあるけどね。「やっぱり日本人だな」ってすっごく思うけど、それが良い面も、悪い面もあるから。でも、良い悪いすらのジャッジもできないじゃん、外に出たこともないと。そういうことを考えられるようになったのは良いかな、と思ってる。
ーーたしかに。
日本にいると、アイデンティティを持つことよりも周りとうまくやっていくことばかりな気がします。
日本人として「見られる」こと
安達さん:やっぱり、日本以外のところに行った時の立ち居振る舞いっていうことって、あんまりみなさん考えてないよね、って思う。例えば英語がしゃべれないっていうのもさ、日本ではふつうだけど、海外行ったら結構恥ずかしいじゃん。おれだって別に行く前は喋れなかったけど。
中・高・大…うん、中高だけでも6年間勉強してんのに一切喋れない、みたいな感じじゃん。
戦後にGHQが敷いた教育システム、やべえよね(笑)。
ーーみんな「英語は学問としてこなすもの」みたいな感じで、それでいいやみたいになっているというか…。実感を伴った言語だということを思っている人って結構少数だと思うんですよね。
安達さん:喋れればいいなって思ってる人も多そうだけど、そこまでやるわけでもないしね。
ーーなんだか、その感覚忘れていました。私も憤りみたいなものを、自分にも周りにも感じていたことがありましたよ。
安達さん:今でも時々憤るようなときはあるっちゃあるけど、でもしょうがねえなって思ったり。
あと、あいさつのしなさ具合とか、人と目を合わせなさ具合とかさ。
ーーアメリカにいたときに思いましたが、会話をすることが礼儀みたいなところがありますよね。お会計のときとかに「How are you?」って感じで声をかけられるので、日本の「いらっしゃいませ」のあの感覚で聞き流すと失礼な感じになるというか。
安達さん:たとえばここの店にくるお客さんとかも、入ったら絶対ここを通るわけで、おれが目の前で「こんにちは」って言えば、大抵「こんにちは」って返してくれるんだけど、ごくたまーに、それすらシカトしていく人とかもいるわけ。なんか…ねえ…。ぺこり、くらいはせめて…。
ーー多分、「お店の人」は挨拶をしてきて当たり前みたいな感じなのかも…。「そういうシステムで動くもの」みたいな感じというか…。
安達さん:あと、たとえばだけど逆にさ、海外の人がヘンなことやっても、「ガイジンだからしょうがねぇか。」って思う部分もあったりするじゃん?でも日本人がやってたら「お前それ!」ってなるじゃん…?「同じ日本国民なのになんでこんなことできないの?あるいはするの?」みたいなのって、同調圧力だなぁと思っていて、なんかよくないとこだなって思ったりはするね。
ーー身内にキビしい。もう、そういう厳しさがいいものを生んでいるとかならずしも言えないとこまで来ちゃってる感じですもんね…。
もう結構その辺って、グレーになってきちゃってる部分ではあると思うんです。難しいな。
お店に来るお客さん
ーーどういうお客さんが多いですか?
安達さん:良いお客さんがすごく多いよ、すごく多い。駅前じゃないから、通りすがりっていうのがあんまりないんじゃない。「知っててここに来る」っていう人がほとんどなんだよね。なんとなくでも予備知識みたいなのがある人が多い。ほら、クセはあるからこの店。嫌な人は嫌だと思うんだよね。
こうやって音が大きめにかかっていたら嫌だとかさ、駐車場があるところが良いとかさ。まぁ今のとこ、特にそういう文句を言うお客さんもいないし。
なんにも知らない観光客の人はあんまり来ないんだよ。県外から来る人たちもいるけど、結構この場所があることを知ってて来る人が多いんだよね。FacebookとかInstagramとか見て来るとかさ。
並んでるからとか、人気があるからとかそういう視点じゃなくて、自分の意思で自分の好きなものを探して行きたいところに行く、みたいな人は多いかもね。
あとうちはさ、食だけじゃないところにもアプローチしてるわけじゃん。そこもめがけて来てくれる人は多いから、外からの人は来てくれるけど、「観光客」というのでもないような気がするね。
頑固親父の店
安達さん:おれがニューヨークで初めて働いたカフェのオーナーの人がさ、お客さんに「こういう風に変えて出してくれ」とか言われても、ノーって言うわけ。このサンドイッチにマヨネーズ入れてくれって言われても「ノー。合わないから、これはだめ」「お金払うから」って言われても「ノー」。するとケンカになるわけじゃん、アメリカだから(笑)。「Why」つって。そのオーナーは、従業員の俺らに対しても「断れ」って言ってて、だからもう押し問答なわけ。そうするとオーナーがさ、「もうお前帰っていい」って、お客さんを帰らすんだよね。「それがわからないんだったら来なくていいから」っていうような人だったわけ。アメリカでそれをやってる日本人がいるっていうことがすごい衝撃で。
ーー頑固親父の店…!
安達さん:そういうの、ふつうの店とかチェーン店みたいなとこだったら絶対できないよね。まぁ、それにすごい「いいの!?」みたいな衝撃を受けて。オーナーも要は、フィルターをかけてたのかな。その人はお客さんを選んでたんだと思う。ここを好きな人がくればいい、っていう。お店が繁盛するのは嬉しいけど、なんでもいいわけじゃないよね〜。
そういうところにいたからか、たとえばうちの雰囲気がわからない人が来て、もう二度と来ないとしても別に構わないとは思ってる。
でも、そういう人たちも振り向かせたいというか、「いいな」って思わせたいっていうのもまたあるかなぁ。
お客さんもお店も自然に「棲み分け」ができると、平穏にお互いのこだわりを保てるのかも。
松本の気になるところ
安達さん:なんだろうなぁ〜、気になるところ…。土地全体としてのポテンシャルがすごくあると思ったから帰ってきたし、この街なら面白いことができるだろうし、一緒に面白いことをやれる人がいっぱいいるっていうところは思ってたんだよね。実際そうだったんだけど。
ーーそういう思いを持ち始めたのはいつ頃ですか?
安達さん:ニューヨークから帰ってきて、東京にいた時かな。でも、ニューヨークにいた時も思っていたのかもしれないね、「松本で」って。東京に帰ってきた時に、「東京やだ」って思って。自分のチョイスとしてもうなかった。「松本いいな、松本でやりたいな」と思って。なんかこの街だったら面白いことできるかも、って思って、なんとなくだよ。だから、まぁ気になる場所とか人はたくさんいて、その人たちがもっとそのポテンシャルを発揮できたらなぁ…って感じ…?
安達さん:あと、そうそう。ストリートカルチャーが弱いと思うんだよね、松本って。イマイチ盛り上がってないなって。スケートとか自転車とかやってる人いるけど、出てこないじゃん?グラフィティも絶対消されちゃうしさ。でもちゃんとしたアートとしてやれる人がいればさ、それはアートにもなってくわけだし。まぁそれがアートになったらいいという話でもないから、難しいけどね。
ーー山っぽい感じや、コーヒーを推す人は結構多いですよね。結構大人向けの文化な気がする。
スケボーと自転車
安達さん:ほっこり系カルチャーとかさ、それはそれでいいと思うんだよ。でも、スケートやってる若い子とか、パーク行ったら結構いるけど、街ではほとんど目にしないというかさ。まぁ街でできないっていうのもあるけど。道も狭いし。
アメリカとかだと特に、カルチャーの中心にスケーターがいたりとかして。スケーターがパーティやってそこに人がバンっと集まってくるとかさ。
松本ってそれがすごく弱くて、おっさんスケーターのほうがむしろ元気っていうか…。おれより上とか、おれらぐらいの人とか。その人たちは若い子たちの「シュン」とさ具合っていうか、そういうの残念に思ってるっていうか。スケートはしてるけど、あとは家に帰ってゲームしてるとかさ。そうじゃないじゃん、っていうか…。その辺のカルチャーの発露がないというか。表現する場所もまぁないよねーと思うから、居場所もね。だからおれは、この場所にスケーターが集まってくれたらいいなと思って「スケーターはランチの大盛り無料」とか言ってんだけど(笑)。
ーー大盛り無料!素晴らしいですね。自分は免許がないので、スケボーに乗れたらいいかもしれないと思うことはあります。ただ鈍くさいために、恐怖がまさって練習には至っていないのですが…。キックボードなら手すり?ハンドルがあるので最高なんですけど、なにせダサいので…。
安達さん:まぁ、危ないには危ないってのはあるよね。それに、スケボーとかで人通りの多い道走っちゃいけないっていうのはあるからね(笑)。自転車は?自転車はないの…?
ーー前はあったんですけど、パンクしたままアパートにずっと放置していたらゴミだと思って捨てられてて、それ以来ずっと徒歩です。次はいいの買おうと思って買ってない、みたいな…。
安達さん:自転車もね、カッコいい自転車屋ってないよね。本当に好きな人は県外で組んでさ、持ってくるとかしてるんだけど、それだとまた大変じゃんね。スタートする人にとってはよほどじゃないとそんなことまでできないみたいな。やっぱり気になるのは、ストリートカルチャーが弱いということと、スケボー屋さんがない。路面のね。あとかっこいい自転車を置いている店がない…。その辺のカルチャーがもうちょっとあると面白いんだけどなぁ〜、っていう。Supremeとか、若い子好きじゃん?でも、それがスケートブランドって知ってて着てんの?っていう。
まぁVANSもそうだけど、今はスケーターじゃなくても履いてるよね。でもそもそもがスケーターから派生してのものだったじゃん?でも日本でSupreme買ったら、スケートする時着れないよってくらい高いじゃん?なんだかな、と思うんだけど…(笑)。
そもそものスケートのカルチャーがああやってカッコいいもの作り出してて受け入れられてるっていうところがあるから、もっとスケートっていう部分をフィーチャーして、松本にもそういうカルチャーが根付いていけばいいのにな〜っていう。そこが足りないピースだな、って最近よく思っているところ。
安達さん:バルセロナとかはさ、レンタサイクルみたいのがいっぱいあって、街中にビャーって並んでるわけ。どうやって使うかよくわかんないんだけど、タダで使ってるのかな…?ステーションがいっぱいあって、置き捨てできるみたいな。
ーー放置自転車問題解決とか、高齢者の雇用を生んだりとかできそうですね。松本にある貸し出し自転車「力車」のシステムが気になってきた。
安達さん:あ、それって前かごに「力車」って書いてあるやつでしょ?まぁ、バルセロナのもかっこよくはないんだけど、でもママチャリじゃなくて…あ、ママチャリって日本のもんか…。でも、バルセロナの自転車も特別かっこよくはないけどそれはそれで画になるというか。
景観の美しさについて考える
この写真は、お店を探検していたら現れた地下への階段…。気になりますね。
安達さん:都市景観のセンスのなさっていうのは日本人の一番悪いとこなんじゃないかっていうくらい。看板とかね。
でもそれは、日本語の文字の特性のせいってのもあるよね。漢字・カタカナ・ひらがな・ローマ字、大きく4つもあるから、看板も結構統一性のないものができてしまうのはしょうがないかなっていうのはあるわけ。これは日本語が抱える問題でもあると思ってて。あとは電線があることとか。
あと、ストリートに対して直角に出てる看板が多いじゃん。たとえばバルセロナやフランスだと、建物についてるものが多くて、たまに出てるのもあるけどそんなヘンなのが出てるわけじゃないから、街を見た時に美しいじゃんね。それもねぇ、多分決まりがあるんじゃねぇかなーと思うんだけどね。だって目立ちたいから、決まりがなかったらきっと派手なのつけるじゃん。
とにかく日本は看板のあれやこれやのなさで都市景観が汚いでしょ、あとは電線でしょ、あとはのぼりね。パタパタしてるのぼり。あれ、無くした方がいいと思う。あれもさ〜「目立ちゃいい」の最たるもんじゃん。「そば」「そば」「そば」「そば」「そば」みたいな(笑)。
ーー確かにダサいのぼりは多いですが、かっこよく使えばかなり渋くていいものになる場合もありそうですよ。戦国武将を彷彿とさせてくれるかもしれないですよ。
安達さん:そういうカッコいいデザインできる人がいないじゃん(笑)。センスある人がそこらへん携わることってないと思うんだよね〜。だからもう、いっそ禁止令を出して欲しい(笑)。やってもらうしかない…。
ーー尋常じゃなく、のぼりを憎んでいる…!!
話しているうちに、のぼりってすごく日本っぽいものだなって気付きましたよ。
近代化、アメリカ化している現代においても、そっと残っている伝統ってやつじゃないでしょうか。
でも、「のぼり かっこいい」でググると、なんだかWebサイトのバナーのようなものばかり…。
自分のお店は目立つかもしれないけれど、街の景観にとってはどうなんでしょう…?
だれか、だれか納得できるカッコいいのぼりを立ててくれ…!渋めのやつ…!
戦後の美的センスとアメリカ
2階は住居スペース。磨りガラスが渋い。
安達さん:都市景観の美しくなさってほんと残念でさ。やっぱヨーロッパの景観って美しいじゃん。あんな綺麗なものに囲まれて育ってたらそりゃセンスも磨かれるわなと思って…。もうベースが違うと思うもん…。美的センスっていうの?美的センスだよね…。
ーー日本にも美しいものはたくさんありますけど、私は戦争をしたことと戦争に負けたことがそれを失った大きな原因だと思っていますよ…。
安達さん:いや、そこだよ。絶対そこだよ。
ーー日本における「洋」のカルチャーって、だいたいのベースがもう「アメリカ」じゃないですか。変な英語が多いことも…。わたしが就活で受けたアパレルの会社の社長さんたちがアメリカのものに憧れていたっていうところからもすごく感じるんです。でも彼らの中ではそれがちゃんとアメリカだってわかっていましたよね。安達さんたちのように意識して、異文化として「アメリカのスタイル」を推していくことっていうのは健全だと思うんですが、日常にアメリカがいっぱいあるのに自覚すらできない状態になっているっていうのって、なんだか怖いような気がして。別に政治や思想的な話ではなくて、もう生態系の一部になってしまっているようなことっていうか。
安達さん:まぁ、その辺は難しいところではあるんだけど、例えばよその文化を取り込む力っていうことに関しては日本のいいところでもあってさ。昔からさ、中国・朝鮮とかいろんなとっから渡ってきた文化を日本的に昇華してきたものとかがいっぱいあるわけじゃん。お寺とかだってそうだよね。だから戦後にアメリカの文化が入ってきて、日本的に解釈したってことはそれはそれで仕方ないしいいんだけど、問題はそれが美しくなってないっていうのがさ…!
ーーお寺との違いはそこにある…!
安達さん:もともとセンスはあったはずなのに…!?
みんな「書きすぎる」。
安達さん:おれの父ちゃん母ちゃんもさ、おれがこういう店を始めた時、最初は全然理解できなかったと思う。「お客さん、これじゃわかりづらいんじゃない?もっと広告をわかりやすく」とか言われてさ。
思うんだけど、日本の街の中も店の中もお知らせばっかりでさ。注意書きとお知らせばっかり。「書いときゃいい」みたいな…。それって別に「親切」じゃないんじゃない…?っていう。書いていないとわからないという人がいるから書かざるをえないという場合が多数だと思うんだけど。その辺も美的センスっていうか、美しい気持ちの良さみたいなものを忘れてしまって、全体的に、便利とかわかりやすさばっかり求めちゃってる感じ…。そこもどうしたらいいの?って思うんだけどさ。
働く上で考えること
安達さん:今っていい店も多いけど、「一見いい店」みたいなのもあるじゃん。ディティールに違和感を感じたり。雰囲気だけ、っていうか…。その土地だけで成り立てばいい、ていうようなことなのかな…?ってちょっと思ったりするんだけど。県外から、国外から人が来て、ほんとにその店で満足する?とかさ。そういうことを考えちゃうよね。
ーーわたしも誰かを案内するときに、その土地っぽさというよりは、「場所のオリジナリティ」というか「面白味のある所」を紹介したいなと思ったりしています。上手く言えないのですが、そういうものの集積が街のイメージを作っているのかな、というか…。
安達さん:たとえばチャイナスパイス食堂なんかさ、おれ、どこから来た人も連れて行きたいって思うもん。美味しさもあるけど、あの店の雰囲気とか。段ボールに習字を書いて壁じゅうに貼ってるのとか、きちんとした絵を描いて飾ってるのとか(笑)。いいなって思うんだけど、でも、そういう良さとか違いみたいなものに気づいている人って絶対数として多くはないと思うんだよね〜。
もうさ、ほとんどの人が国道っ端のファミレスとかしか行かないと思うわけ。そのなかで一厘の人がうちに来てくれるっていうか。だけどその、一厘の人に影響力があるから、それに付随した人がまたうちに来てくれるっていう、それでしかないと思う。
でも、たとえば「うちはうちでしかないぞ」と言っていても売れてなきゃ意味ないよね。今のところはちゃんとビジネスが成り立ってるからこんなことも言えるけど、そこのバランスっていうのはすごく難しいよね。
きちんとお金が稼げます、で、自分の持ってるものもきちんと表現して、小さいコミュニティじゃなくていろんなところに表現を広げても、「いいよね」って言ってもらえるものであるべきって思うし…。そこもバランスかな。
だからビジネスはうまくいってるけど形や雰囲気だけ、みたいなお店とかを見ると、「ビジネスの先にあるものとして、来てくれるお客さんのセンスも引き上げるようにしてくれたらな…。」と思うことはあるね。
ーーみんなが求めているだろうから、って合わせちゃうタイプの人だと、「個性・こだわり」みたいなお店づくりよりも、一般受けのオシャレさを狙ってしまったりするのかもしれません。メインストリームというか。クラスの大多数の層みたいな…。
でも安達さんのお店は、学年に一人くらいいる、「あんな子いたっけ?あ、いた。あいつ喋った事ないけど、すごくセンスいいんだよ。」っていう人みたいな位置付けっていうか…。うまく言えないですけど…。
安達さん:信念というんじゃないけど、文脈があるというか、芯がある、こだわりがある…… 難しいけど、そういうのって大事かなと思うな。
「周りの人」と違う道を歩むときには
安達さん:おれたちは、型にはまれなかったから今こうしてるわけじゃん(笑)。でもそこで、きちんと型にはまれなくても金稼げるし生きてけるし、ってことがわからないと、みんな「型にはまらないといけないんだなぁ」ってなっちゃうだろうな、と思う。
安達さん:こういう話をするときにお金ってすごいキーワードになると思うんだけど、ドロップアウトした人のすごい成功例とかで、「おれは昔ヤンキーでどうのこうの」って言ったってその辺はもう成功に霞んで、上の空の部分なわけじゃん。でも、ふつうのおれらみたいな人はさ、ちゃんと金稼いで生活できてないともう、なんというか夢も希望もないわけじゃん(笑)。
ーー「ちゃんとやってないと、ああなっちゃうのよ〜」っていうことですよね。そんな例に使われたくない。
安達さん:あと、今の若い子たちが仕事続かないとかすぐ辞めるとかっていうの、あるじゃん。おれも雇われてるときに見てて、「ほんと根性ねぇなあ」って思うことは結構あったんだけどさ、でもそういう考えってある種アメリカ人っぽいというか、それはそれでいいと思うんだ。
でもそれで勝ち残ってよ、っていうか…まぁ個人の自由ではあるんだけど、そこで成功していかないと納得はしてもらえないよねっていうか…。
ーーほんとにそれですね…。
安達さん:いつの時代もどうせそんな風に、「若いもんは」とかって思われてるわけじゃん(笑)。だからこそ、自分の決めたとこまで全うするのは大事だと思うな。最初の志がすげえ高くてもさ、たくさんの挫折があるわけじゃん、思ったことができないとか、先輩がこわいとかさ。でも、自分が決めた志だけは全うして、辞めていいと思うんだ。そしたらまた次があるじゃん。自分の武器がなんにもないまま年だけ食って、っていうのはしんどいものがあるからね。
ーー志っていうの、わたし結構ないタイプなんで…。ほんと、骨身に沁みますよ…。
安達さん:でもさ、なんか時間外とかでやりたいことなんてのはあるわけでしょ?そういうのって、すごくいいことだと思うよ。別に時間外がいいっていうわけではなくって、なんていうか、やりたいことに対して自分の時間を惜しみなく使いたいことってあんまないじゃん?
きちんと稼ぐこと
安達さん:そうやって自分の時間を使いたいことを探したり伸ばしていくことも大切なんだけど、最近は「お金いらないから頑張ります」よりも、「お金稼ぎたいから頑張ります」のほうがなんか健全なんじゃないかって思い始めて。ボランティアとかお手伝いみたいなのもいいんだけど、ここまで頑張ったらここまで報酬があるっていうほうがわかりやすいし、ちゃんとした働きができるんじゃないかっていうのは結構思うね。きちんと稼ぐ、ってのは大事なんじゃないかな。そのために、雇う側がちゃんとするっていうのは大事かなって思うな。いつの日か人を雇うような事になった時に、考えていきたい事ではあるんだけど。
たしかに、きちんと生活できるお金があることで、いらない愚痴が一個減りますね。
「どうせ」という気持ちがないほうが、長い目で見てちゃんと全力を出せるというか…。うん、なるほど…。
ーーやりたい事がない人や、行き詰まっている人がいたら、どうアドバイスしますか?
安達さん:たとえば将来やりたいことみたいなのってさ、ない人がほとんどだと思うよ。でもさ、とんがっててもヘンでもなんでもいいけど、そういう中で社会と折り合いをつけていくっていうのもまた大事だよね。バランスかな。そういうのをちゃんと人生に繋げていけると、いろんなことがうまくいくんじゃないかな?
安達さんの一週間
お店が木曜定休なので、金曜始まりのカレンダー。
ほとんどはお店に立ったり仕込みをしたりしている安達さんですが、空き時間でジムに行ったりリサーチしたり、周辺のお店に食べに行ったりしているみたいです。
安達さんの字とても好きです。
安達さんの携帯のアプリ
いつもはかばんの中身のこの企画。しかし、特にかばんを持ち歩かないという安達さん。
代わりといってはなんですが、どんな携帯のアプリが入っているのか聞いてみました。
・スペースアルク(翻訳サイト)
・たくさんのショートカット
安達さん:これはエディー・リーのThinking Clip。いろんなサイトからの引用がいろいろ載ってるようなものだよ。エディー・リーが誰なのかとかも全然おれ知らないんだよ(笑)。
「NAVER」「痛いニュース」「哲学ニュース」「ロケットニュース」とか、これはスチャダラ通信。あとこれはファンタジスタさくらだのやつ。
・Sumally
安達さん:自分が持ってるものと自分が欲しいものを写真とともにメモしていけるやつ。
・海外のレシピサイト
安達さん:日本のじゃないからさ、結構インスピレーションをもらえるよね。
・8tracks
安達さん:音楽聴くやつ。キーワードを入れるとそれにヒットするプレイリストみたいのを出してくれる。「mountain」「chill」とかをポンポンポンといれていくと、プレイリストが流れてきて、それが終わると関連したようなのがずっと流れてくるっていう、そういうやつです。
・温泉天国
安達さん:自分のいる場所から近いとこの温泉が出てくるやつ。
この背景は、甥っ子(笑)。
人の携帯のアプリ、カバンよりも謎だった〜!!
取材を終えて
街にレストランがひとつ増えるということは、その街にどんなピースがひとつ増えるかということでもあります。
食だけでないアプローチや、こだわりをもって「商売」をしていくことを大事にしている安達さん。
近代化のためなのか、便利さを追求したためなのか、人々が同じものを求めるようになったからなのか…
とにかく国内外問わず画一的な風景がどんどんと広がっていくなかで、他には無い場所をつくることの大切さを感じました。
今回話題に多くのぼった「みられること」というのは、人として、店として、街として、国として、様々な局面で避けては通れないもの。
人の目を気にしすぎるあまり窮屈になってしまうことが多いですが、堂々と自分を持つことで、かっこよく胸を張っていられるのかもしれません。
今回はわたしもついつい喋りすぎ、かなりのボリュームになってしまいましたが、松本シティにどんどん新しい風が吹いたら楽しいなと思います。
それではまた次回、ごきげんよう!
「The Source Diner」店舗情報
店名:The Source Diner
住所:〒390-0874 長野県松本市 大手4丁目8−17
TEL:0263-75-7896
URL:http://www.thesourcediner.com/
(取材・写真:えづれ / なかざわ 写真提供:安達さん)