豊かな自然、人の温かさ、食べ物の美味しさ。
地方の良さがネットやテレビ、雑誌など各種メディアで頻繁に取り上げられています。
しかし、その多くがまるで口裏合わせをしたかのように自然、人、食の豊かさが取り上げられていて、どれも同じに見えるという方も多いのではないでしょうか?
自然と人と食に恵まれている地域は山ほどあります。
でも、人それぞれ個性を持っているように、地方にもその土地にしかない個性があるはず。メディアの多くが似たような情報しか発信していないのは、きっとその個性に気づけていないからではないでしょうか。
兵庫に住む編集者で有限会社Re:S(りす)代表の藤本智士さんは、出版メディアの多くが東京に拠点を置いているにも拘らず、大阪という地方に拠点を起き、2006年に雑誌「Re:S」を立ち上げました。
Re:Sとは、Re:Standard。「あたらしい"ふつう"を提案する」をコンセプトにした、まだ世間に知られていない、あたらしい”ふつう”を地方から全国に発信するローカルメディアです。
ローカルメディアとは、一般的には地方で発行・発信されているメディアのこと。
地域の情報誌やケーブルテレビなどを指しますが、藤本さん曰く、実は「最小単位にして最強のローカルメディアは自分である」とのこと。
自分の言動はすべて自分からの発信であり、他人はその言動に対して、共感や感動、時には苛立ちを覚えます。これは紛れもなく自分がメディアである証拠です。
雑誌「Re:S」は現在は休刊中。休刊するタイミングで、自社名をRe:Sへと変更した。
Webメディア「みんなのミシマガジン」の連載で、藤本さんは自身の雑誌のつくり方は業界の常識からするとかなり変わっていたと綴っています。
通常の雑誌は、内容やページの構成を事前に決めてから取材や素材集めを行います。しかし、藤本さんの雑誌づくりはおおまかな特集内容や方向性を決めたら、あとは現地での出会いに任せるというスタイル。旅人みたいです。
独特な取材スタイルを採っているのは、調べれば分かる名前の通ったお店や場所、人へ取材に行くよりも、様々な偶然が重なって出会えた「世間がまだ知らない、その地域にふつうにある宝物」を伝える事に編集者としての使命を感じているからだそう。インターネットは使わずに、旅の中での出会う事を大切にしているからこそ、あたらしい"ふつう"を発見できるのかもしれません。
雑誌「Re:S」の取材を通して、自身の目指す編集のフィールドが地方にあるとの確信を深めていった藤本さんは、2012年に秋田県庁が発行するフリーペーパー「のんびり」の編集長に就任しました。
「のんびり」とは「NONビリ」ということ。つまり、ビリではないという意味です。秋田県は、高齢化率・人口減少率が全国1位。数字だけ見れば、確かに課題先進地域です。
しかし、そこにはうまい飯とうまい酒が当たり前にあります。"うまい" が "当たり前"という豊かさを改めてじっと見つめてみると、順位だけでは測れない大切なものが見えてくるような気がします。
毎号、「のんびり」の表紙をめくると書いてある言葉たちが、のんびりが大切にしている価値観を教えてくれます。
ビリだ一番だ。上だ下だ。と
相対的な価値にまどわされることなく
自分のまちを誇りに思い、他所のまちも認め合う。
そんなニッポンのあたらしい"ふつう"を
秋田から提案してみようと思います。
(「のんびり」毎号3pより)
フリーペーパー「のんびり」は2016年3月までに計16号を発行し終了したが、現在もHP(http://non-biri.net/index.html)で電子版を読むことができる。
「のんびり」は藤本さんや都会のクリエイターのようなよそ者たちと、地元の若いクリエイター、県庁の人たちががっちりとタッグを組んでつくられていました。
雑誌をつくることをゴールとせず、藤本さんが培ってきた編集スキルを秋田の若手クリエイターを伝え、育てる場にもなっていたようです。
よそ者と地元の人たちがタッグを組むことで、あたらしい"ふつう"を発見していく面白さは、第1号からも存分に発揮されています。
今回、本誌第1号を作るにあたって、それぞれが伝えたい"秋田のふつう"について話していたとき、県外メンバーがびっくりしたことの一つに、秋田の寒天文化がありました。
(中略)
県内メンバーの寒天思い出話はさらにヒートアップ。最終的には「秋田のお母さんはなんでも寒天で固めちゃう」とまで言い出すからいよいよ信じがたい(笑)。しかしこの話、あながち嘘ではないようで、なんと、キュウリ、人参、マヨネーズといったいわゆるサラダの材料を寒天で固めたサラダ寒天なるものまであるそうで、それはもう遥かに僕達の想像を超えていました。
(「のんびり」第1号、5pより)
秋田ではふつうの「なんでも寒天で固めちゃう」という発想も、よそ者にとってはあたらしい。
第1号ではこのあと、その発想のなかに秋田の豊かでのんびりな暮らしのヒントがあるはずだと、秋田の寒天文化を取材する旅がスタートします。
(続きが気になる方は「のんびり」電子版へ!ちなみに寒天つながりで、第5号では長野県茅野市まで取材が来ています)
旅するように地方を取材しながら見つめ続け、あたらしい"ふつう"を発信し続けてきた藤本さん。
「のんびり」を読んでいると、ローカルメディアな自分として、住んでいる街に飛び出して、あたらしい"ふつう"を探しに行きたくなります。
自然や人、食の豊かさというどこにでもありそうなものではなく、その土地ならではの、世間がまだ知らないあたらしい"ふつう"という宝物。
私たちのいる松本には、いったい何が眠っているのでしょうか?
ちょうど、藤本さんは7月14日(金)に「魔法にかける編集」(インプレス)という本を出版します。出版にあたって藤本さんは自身のnoteでその想いを綴っています。
編集者として約15年、その魔法を信じ続けてきた僕は、いよいよ僕と同じように地方で暮らす人たちが編集の魔法を身につけなきゃいけない時代だと感じています。
テクノロジーの進化のおかげで、そこがどんなに田舎であろうと発信共有することが出来るこの時代で、その恩恵を授かる術は教えてくれても、それをもって世の中をチェンジしていくための方法については、誰も教えてくれません。
ならば僕はこの一冊で、その術をみなさんとシェアしてみたいと思いました。
(note 藤本智士(Re:S)より)
7月後半からは出版記念イベントのため、文字通り全国を飛び回る予定の藤本さんが、7月29日、30日と長野県にやって来ます!
7月29日(土)は長野県大町市・木崎湖キャンプ場で行われるALPS BOOK CAMPにて「ぼくたちのローカルメディア論」というトークイベント、そして、7月30日(日)はKNOWERS MATSUMOTOにて、編集ワークショップが開催されます。
※ワークショップの詳細はこちらの記事をどうぞ。
長年、地方を見続けてきたプロの編集者と一緒に松本のZINEをつくれるまたとない機会です!
編集や発信に興味のある人は参加必須かも…!
一緒に松本の宝物を見つけに行きましょう!
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