街に漂う金木犀の香りにうきうきしていたはずなのに、
それがいつ消えてしまったかを思い出すことはできなかった。
気づけばもう11月。カレンダーをもくもくと消費しているような気持ちになってくる。
めくった月日はいったいどこに行ってしまったんだろう?
今になってようやく金木犀の香りがしなくなったことに気がつくなんて、とってものろまな脳みそだ。
お気に入りの銭湯の女将さんの話を思い出す。
「金木犀の香りが好き。
わたしの子どものころは、松本に金木犀なんてなかったのよ。
修学旅行で京都に行ったときにねぇ、とってもいい香りがしたから、なんだろうと思ったらそれが金木犀だったの。 父に頼んで植えてもらったわ。」
秋の訪れを知らせるものはいろいろあるだろうけれど、香りといえばやっぱり金木犀だと思う。
好きな本の中の、印象的な一節を思い出す。
金木犀のにおいがする
甘くて歯が痛くなりそう
秋には恋に落ちないって決めていたけど、
もう先に歯が痛い
こんなロマンチックな青春とは程遠い人生だけれど、感傷的なことばに触れたいと思う季節になった。
信州の短い秋は終わろうとしていて、もうだいぶ肌寒くなってしまった。
本格的に、銭湯通いを考えている。
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