2015.1.18 信州スタートアップカンファレンス(主催:長野県・Knower(s))
「日本一創業しやすい環境づくり」を押し進める長野県。
地域でITサービスを展開する、奥田浩美氏(株式会社たからのやま代表取締役、株式会社ウィズグループ代表取締役社長)・吉田浩一郎氏(株式会社クラウドワークス代表取締役社長兼CEO)をメインゲストに迎え、基調講演、3分間ピッチ、長野県で活躍する起業家とのパネルディスカッションを行いました。
【基調講演スピーカー②】
吉田浩一郎 氏「クラウドソーシングにより激変する企業経営と働き方」
おはようございます。 30分ほどですがお役に立てるように精一杯話させていただこうと思います。内容満点なのでスピード上げていきます。集中して聞いてください。
昨年12月12日に、おかげさまで東証マザーズに上場させていただきました。赤字での上場となりました。東京証券取引所というのは端的にいうと、その会社の信用を代わりに保証するところです。
この会社の株は買っても大丈夫ですよと保証するために、一番根拠となるのは事業の成果です。例えば10年間黒字の会社だったら、この会社は大丈夫ですと言えます。
ところが私どもの会社は、東証に出した資料にも書きましたが、設立から今季の決算も含めてずっと赤字の状況です。それでも上場させていただけたのは、IT業界では14年ぶり、サイバーエージェントぶりとなります。サイバーエージェントの上場時は、インターネットの広告という新しい大きな市場が立ち上がるということで、赤字だったとしても上場の承認がおりました。
我々のサービスは、個人の眠っている労働力を誰にでも使えるようにするというものです。この労働力活性化という市場が、非常に大きなものだと認めていただいたのが上場を果たした理由だと考えています。
インターネットがなかった時代というのは紙で情報を管理していたんですね。紙で情報を管理していると、紙を集めた人が情報の強者になります。例えば、営業マンが日報を出すとそれを読める営業部長だけが営業マンの行動を把握できます。
昔の上司というのは情報を制限することで自分だけが何か知っている、という形でマネジメントできていたわけです。行政も同じようなことが言えて、地元のお祭の情報でさえも昔は回覧板で情報を回していて、回覧板が回ってくるまでその情報を個人は知ることはできません。
行政が一旦情報を集めてから渡しますよという形では、個人は常に受け身の存在なんです。ところが、インターネットが発達してきたことによって、個人が企業や行政の力を借りなくても情報発信ができ、情報を受け取ることもできるようになりました。
このように、20世紀に比べて個人に関するあらゆる資産が活性化する時代なので、個人にフォーカスを当てたビジネスモデルの方が絶対に伸びると思います。
実際に世界はどんどん変わってきていて、チュニジアのジャスミン革命は、デモ禁止・外出禁止と政府が言ったにも関わらず、インターネットを介してしまえば、何万人という人達が集まってデモをすることができるんです。
これはインターネットがなかった時代には無理だったことです。外出禁止になってしまえば、残る通信手段は固定電話くらいしかないので、何万人もの人が1つの場所に集まることが難しい。インターネット時代に外出禁止などの圧力はほとんど意味をなさないことになります。
また、企業が国家を選択する時代にもなってきています。GoogleとかAmazonなど、皆さんお使いだと思いますが、Googleの日本での売上は会計上オランダについています。皆さんはオランダのサービスを使っているんです。
Amazonもアメリカのサービスです。皆さんがスマートフォンを使って本を買った場合、長野県にいるのにアメリカから物を購入しているのことになります。
つまりインターネットによって、実際にいる土地に関係なく消費ができるようになってきています。ここにあるペットボトルのお茶のは、オランダやアメリカで販売する場合、必ず税関を通ります。
モノの時代は、絶対に国の管理を逃れられなかったのです。ところが、オランダのサイトにアクセスするというのは、パスポートもビザもいりません。
さらに、シェアリングエコノミーという言葉を聞いたことがあると思いますが、 そもそも国や企業に属さなくても、個人と個人でいろんなものを融通しあおうというビジネスが生まれています。
「Airbnb」は、は、個人の家の空き部屋を1泊単位で個人にダイレクトに貸すことができてしまいます。
国に登録しなくても、旅行代理店に言わなくても、個人がダイレクトに世界中の旅行者に貸すことができるんです。これが一千万泊を突破していて、非常にブレイクしています。
「Uber」は、Airbnbの車版ですね。アメリカでやっている「UberX」というのは、さらに発展させたサービスです。UberXとして登録された普通の車が、iPhoneアプリ1つでタクシーになってしまうのです。
我々のクラウドソーシングというのは、それのスキル版なんです。例えば、子供が寝た後に2時間空いていると。クラウドソーシングであれば、短時間の仕事もマッチングしますから1時間だけ働くということが可能になるんです。
子育てママがイラストやデータ入力が得意だったら、そういったスキルを生かして企業に貢献することができます。昔は税理士や弁護士のような専門資格を持つ人しかできなかったような専門職のような働き方が、一般事務やデザイナー、エンジニアなどあらゆる職種で可能になってきているんです。
いろんな仕事が発注可能になっているんですが、何より特徴的なのは、クラウドワークスだけで年収一千万円を実現している人がいるということです。
別の見方をすると、例えば不動産は、購入から賃貸、賃貸から時間貸しも出来るようになってきています。それと同じように、人材についても、正社員から派遣社員、派遣社員からクラウドソーシングが浸透してきています。
では、そもそもなぜ企業が信用のなかった個人に仕事を発注し始めるようになったのかというと、これはクラウドワークス単体の話ではなくて、世界が変わってきているからなんです。この変化は価格の源泉が「製造原価」ではなくなってきていることに由来します。
今までの日本のモノづくりを支えていた、製造原価ありきの価格設定が崩れ始めています。例えば、本の値段は「印刷代」「著者の印税」「出版社の報酬」「発行部数」などから逆算して決めていました。
しかしAmazonが古い本に関しては電子書籍で一律の価格で販売しました。音楽業界もそうで、「Spotify」というサービスがあって、月額を支払えば20万曲聞き放題、映像も映画館で消費していたものが、「hulu」というサービスを使えば、月に5000本が定額で観られるようになっています。
このように、モノが売れない時代になり困っているのですが、その答えの1つがクラウドソーシングにあると考えています。
「Starbucks Coffee」は、2008年に経営危機を迎えたことがあります。その時に、創業者のハワード・シュルツさんがCEOに復帰をして、製品を見直すのではなく、顧客との関係を見直そうということで顧客を対話するサイトを立ち上げました。
Starbucksに関するあらゆることについて、みんなで意見を出してもらい、ブランドをつくるプロセス自体をユーザーと共有したんです。その結果、「”You Are Here” mug(ご当地マグカップ)」が生まれたのです。
これはある旅行好きのStarbucks愛好家が、旅先で入るStarbucksがどこも同じなので旅の思い出になるようなStarbucksが欲しいと言ったのがキッカケです。現在ではこれを目当てに旅行する人もいます。
ここで重要なのは、このマグカップの価格です。1000円くらいするらしいです。製造原価を価格の源泉としていません。ユーザーの希望を取り入れてワクワクさせることで、このような価格が可能になっているのです。
「Wal-Mart」もスーパーマーケットですが、一部の棚に置くものをユーザーさんに決めてもらっているんです。一般的なスーパーは、生鮮食料品があって、調味料があって、と想定できる棚しかないですからワクワクはしないですよね。そこにワクワクを持ち込んでいます。
「NASA」も火星に行くアイデア・課題を開示してしまって、誰でもアクセスしてこの火星の課題を解決してくださいと言い始めました。昔は宇宙開発競争でNASAだけで開発を進めていましたが、より良いから解決方法を集めるべきであるという体制に変わったのです。出来たほうが良いよねという態度なんです。
「General Motors」もスーパーボールのCMを作るにあたり、CMのシナリオ自体を募集して、それが決まれば映像を募集してという流れで、ユーザーと対話しながらオープンに制作を行っています。
我々も様々なことを他社と個人と手がけています。
「ボンカレー」のキャッチコピーそのものをユーザーが考えるというもので、商品のパッケージに使われるという企画です。。予算10万円なのに1週間で4902件が集まりました。キャンペーンとして面白いとTwitterでも注目されて、みんなワクワクしていました。
ベビーカー用品で有名な「アップリカ」もベビーカーの新しいプロダクトアイデアをユーザーから募集をかけて一緒に作りました。
「ユナイテッド航空」は、羽田サンフランシスコ線の販売戦略アイデアを募集しました。本来社内で行っていた業務をユーザーにお願いしたことで、ワクワクすることにつながります。ワクワクしたユーザーさんは、ユナイテッド航空面白いなと感じるようになります。
つまりこれらのように、インターネット上に眠っている個人のスキルや知恵を活用できるので、企業側のアイデア次第でイノベーションを起こすことが可能になっています。
ここ3年間で利用してくれた企業さんは7万社を突破しました。Yahoo, Google, TOYOTA, 講談社, 行政など様々な会社にお客様になっていただいています。そして、サイバーエージェント、電通、リクルート、伊藤忠などから15億円ほど資金をいただいてます。
個人の働き方が変わってきます。現在8割の方が東京以外に住んでいます。地域活性化とも相性が良いですね。
岐阜県では、県が指定して育成した人材に対しては、優先的に仕事を発注したりしています。福島県南相馬市では、震災復興として教育プログラムを現地の方に提供して、一定の要項を満たせば、協力会社からクラウドワークスを通して仕事を発注するような取り組みを行いました。
いま地方で一番進んでいるのは、宮崎県日南市です。人口5万人ほどの都市で、月20万円以上の収入を得られる日南市民の育成をめざした官民協働プロジェクトを開始しています。
クラウドソーシングは年齢も関係ないです。最高年齢85歳、シニア層は4万人を突破しており、70代でガンガン稼いでいる方もいらっしゃいます。
この松本さんは60歳からプログラミングを勉強したという、結構やる気に溢れる方で、クラウドワークスでのお仕事で知り合ったアイデアをアプリにしたいというお医者さんと一緒に3本のアプリ開発を行っています。このような事例がシニアの新しい働き方として話題になり、テレビでも取り上げてもらいました。
この前、東京証券取引所に上場する時に、普通は経営者が鐘を叩くんですが、我々はクラウドワーカーである松本さん達4人に叩いてもらいました。
松本さんはご夫婦でやってきて鐘を叩いてから、ずっと東証の様子を眺めていました。61歳で退職して余生を送る予定だったのに、これだけ仕事ができるようになって、メディアにも取り上げられ、まさか東証の鐘を叩くことになるなんて思ってもみなかったと。本当に嬉しいですと感謝の言葉をいただきました。
埼玉の42歳主婦の林さんも、筆のスキルを生かして全国40店舗の看板やデザインをやっています。42歳・埼玉・主婦、地元の会社に行っても絶対に個人として仕事なんてもらえません。それがクラウドソーシングであれば、筆書きのスキル自体を見てくれて、採用してくれます。
こうやってクラウドソーシングは、個人の眠っている労働力に光を充てることができます。
日本社会というのは、大企業の正社員として働きつづけるという1つのフォーマットしかなかったわけです。新卒で会社に入れなかったらフリーターで、正社員になる道を閉ざされます。子育てが終わり仕事に戻ろうと思っても、正社員は無理で派遣になります。
1回でも降りてしまったら正社員に戻れないというのが、今までの現状でした。ところが、リクルートの調査で2015年の正社員比率が50%を切るというデータがあります。残り50%の方々のインフラというのは未整備なので、そこを整備していきたいというのが我々の考えです。
我々が思い描いているのは、介護・子育てなどで正社員から離れたとしても、正社員に戻れる仕組みです。今まで企業というのは信用がありましたが、個人は未だに履歴書だけですよね。
インターネットで公開になっている仕事の評価を「見える化」させることによって、履歴書に代わる個人の信用インフラを作っていきたいと思っています。個人として自立して仕事した実績が「見える化」されていれば、もう1回正社員に戻ることができるんじゃないかと思っています。
そのためには、仕事・教育・社会保証が必要です。企業さんと組んで教育制度や認定制度をつくっていたり、福利厚生のサービスを代行している会社と提携して、在宅で仕事をするお母さんでも福利厚生を使えるような仕組みをつくったり、企業に所属している場合と同じような団体保険に入れるようにしたりと、取り組みを進めています。
このように、日本中の様々な企業に様々な人材調達のあり方、新しい働き方をもたらすことが出来ると考えています。
今日はありがとうございました。
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